【論文紹介】Drug-likeness(薬っぽさ)って何?~Rule of 5(Ro5)提唱からの20年~

メドケム・創薬

こんにちは、メドケム凡人です!

 

皆さん、Drug-likeness(薬っぽさ)という言葉は聞いたことがありますか?

 

以前投稿した記事にて、低分子創薬の流れについて説明しましたが、そこでも紹介した通り、低分子創薬では少しの構造変換で様々な要素が容易に変化します。その為、多数の化合物が合成されても、ほとんどは薬になることがありません。そうすると、以下のような疑問が沸いてくると思います。

 

「薬になる構造ってどんな感じなの?薬っぽいってなんなの?」

 

先人達も研究に研究を重ねても中々上手くいかない現状から同様の疑問を抱きました。そこで、なんとかして成功確率を上げようと、薬として使われている化合物の特徴を分析し、その共通点から薬になり得る構造を考えるという取り組みをするようになりました。

 

その取り組み結果の一つに、有名なリピンスキーのRule of 5(Ro5)というものがあります。Ro5は経口薬のdrugabilityを評価する指標として1997年にファイザーの研究者達によって提唱されました。主に経口薬として重要なファクターである膜透過性溶解性に関連する指標をまとめたものになります。

 

そのRo5は1990-1997年の間にFDAに承認された薬剤のプロファイルを元にして定められており、ClogP 5以下、分子量500以下、水素結合ドナー(HBD) 5以下、水素結合アクセプター(HBA) 10以下とされています。調査期間に承認された薬剤のうち90%程度がその中に入っていたので、当時は信頼性のある指標とされ、創薬時によく使われる指標となりました。

 

しかしながら、本当にRule of 5に適していないと薬にならないのでしょうか?Rule of 5は今から20年も前に提唱された物で現在も変わらず使い続けられるものなのでしょうか?

 

ご存じの方も多いかと思いますが、実はそうではないということが最近わかりつつあります。Ro5に呈していないにも拘わらず経口薬として市場に出回っている薬(例えばvenetoclax(分子量868.44)「下図」等)が出てきており、最近ではRule of 5の概念を広げた、expanded rule of 5beyond rule of 5などが提唱されるようになってきていますよね。

 

私自身も現在本当にRo5は正しいのかという疑念を持っていたものの、きちんとしたデータを見たことがなかった為、少しモヤモヤしていました。しかし最近、Ro5提唱後の20年の承認薬剤について分析したという論文がJMCに最近発表されました。是非読んでもらいたいと思ったので、今回はこの論文を簡単に紹介したいと思います。

 


J. Med. Chem., 2019, 62 (4), pp 1701–1714 DOI:10.1021/acs.jmedchem.8b00686

分析結果概要

論文中では、FDAに承認された化合物において、期間を区切り(1998-2007と2008-2017の2期間)過去と同様の分析を行っていました。1998-2007年の間の変化は緩やかではありますが、2017年まで解析すると圧倒的に分子量が増え、それに伴いHBAやRofB、TPSA(極性表面積)も向上していることがわかりました。そして、この分子量の増加は、承認薬剤だけでなく、臨床入りした化合物も見られています。詳しい数値データは論文を見て頂ければと思います。

 

また、FDAに承認された化合物の総数を期間毎に区切って分析すると、「承認されている薬の数は増えているものの、実はRo5内の化合物数は70個程度でほぼ一定」ということがわかりました。つまりBeyond Ro5の化合物が承認数が増え、全体の承認薬剤数の数が増えていることになります。これには驚きました。

 

また、筆者らはパラメーター同士の相関関係はDrug-likenessと結びつけるべきではないと主張しています。薬には複数のパラメータがあって、それぞれが独立に考えられるべきだということです。例えばMWの最頻値は440付近、logDの最頻値は1.9付近だそうですが、両方のパラメーターがこれら付近の化合物は全体のわずか6%に過ぎないそうです。

 

各パラメーターが具体的にどれくらいの値になればいいのかというのはあまり気にする必要はなく、これを超えると可能性が下がるのでは位に思えばいいということだと思いました。

取り入れたいドラッグデザインの考え

この論文を読んで、感じたことや今後こうしたいと思った内容をまとめます。

 

1. 経口薬のdrug-likenessの指標として用いてきたRo5は正しい物ではなく、現在は現在の流れに合ったルールを提唱すべきだと思いました。 今もRo5に従う化合物が経口薬になりやすいという主張もあるかと思いますが、皆がRo5に沿ってデザインしているので、半分当たり前なんですよね。Ro5に従い過ぎたせいで、ドロップしてしまった薬剤もあるはずなので、プロファイルが良ければ、先の試験にかけて判断すべきだと思います。ちなみに論文中では、MWが大きい化合物でも経口薬になりうるので、新しいルールとしては以下の論文中の指標を適応するのが良いと紹介されてました。(Chem. Biol. 2014, 21, 1115−1142.)

 

2.論文によると、「膜透過性は、HBDとTPSAとClogPで予測できるが、MWと相関はない。溶解性自体はHBD、PSAとの相関はなく、MWが大きくなると溶解度はわずかに上がる傾向にある。」ということだそうです。分子量が小さくなると膜透過性が良くなると勘違いしてましたが、あまり分子量との関係はなさそうで、水素結合性を下げるとか、極性を下げる方向にした方が良いということですね。分子量が大きくなると溶解度が上がるのは、自由度が上がり、疎水基を中にしまってPSAや極性を上げるコンフォメーションが取りやすくなるからだと思います。

 

3.MWが上がっても経口薬になり得るが、分子量の増加に伴いlogPが上がることは避けなければならない。そして、ClogPは計算方法によって異なる結果が出る可能性があり、MWが大きくなると実測値との解離が大きくなる為、膜透過性を上げるドラッグデザインをするのであれば、HBDに気を付けながら、logPもしくはlogD(7.4)を実測し、最適化する分子設計をするのが良いと述べられていました。logDやlogPをスクリーニング的に全化合物取れるのが条件になるかと思いますが、計算値より実測値をということで理にかなっていると思いました。近年は測定のスループット性も上がっているので可能だと思います。

所感

やはりデータとして見てみると、「Drug-likenessとは何か」ということをもう一度考え直さなければいけないと感じますね。特にモダリティが広がりつつある現在では、低分子の延長として、少し分子量の大きい薬剤開発に取り組んでいる企業や大学も多いかと思います。

 

どの分野にも共通することですが、昔の考えを捨てられるかどうかが成功への大きな鍵になっていると思います。今回はRo5が現在は当てはまらない為、新しいルールを策定した方が良いということでしたが、改めて策定したルールがまた時代の流れと共に合わないものになってくるというのは全然あるかと思います。新しい情報のアップデートは欠かさないようにしていきたいですね。

 

また、今までRo5に従った為、切り落とされてきた化合物群が薬になる可能性があるのでは?とも思ったりします。過去の化合物の効率の良い使用法も併せて考えていけると、可能性が広がるかもしれないと思いました。「前例を参考にしつつも前提を疑う」。研究者たるものそういう視点を持ち、日々活動していきたいと思った次第でした。

 

 

 

*著作権の関係上、具体的な数値や図を記載することは控え、論文自体に興味を持ってもらえる様にまとめを書く程度に留めています。気になる点はご自身で論文を確認して頂ければと思います。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします。

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